第二話 完全数のランプ
ひよりが帰ったあと、部屋には静けさだけが残った。真冶はテーブルの上に置いた赤い小さなランプを見つめていた。
その炎は、ひよりの“夢”そのもの。自分には持っていないもの。けれど、ひよりには確かにあったもの。
炎は、心臓の鼓動のようにゆっくり揺れている。
ランプは夢をいくつ灯せるのか
「……このランプって、夢を貯められるのか?それとも一つしか保存できないのか?」
素朴な疑問が頭をよぎる。
もし一つしか灯せないなら、ひよりの夢をどうすればいい?
もし複数灯せるなら、どれだけ集めればいい?
考えれば考えるほど、あの店にもう一度行かなきゃならない気がしてくる。
「……また、あの店に行くのか」
真冶はため息をついた。
スマホが歌いだす
そのときだった。テーブルの上のスマホが突然、着信音を鳴らした。
「……誰だよ、こんな時間に」
画面を見ると、市内の番号。だが見覚えはない。真冶に電話をかけてくる人間なんて、ほとんどいない。
「もしもし」
受話器を耳に当てた瞬間、聞き覚えのある声が響いた。
灯守からの電話
「早速夢を一つ集めたんだね。優秀だ。私が声をかけただけあるね」
灯守の声だった。
真冶は固まる。(……電話番号なんて教えてないのに)
「そのランプにはね、一番最初の完全数の分、夢を集めることができる。完全数になったら、お店に持ってきてくれたまえ。それでは」
一方的に話し終えると、電話はぷつりと切れた。
真冶はしばらくスマホを見つめたまま動けなかった。
完全数とは
「……完全数?」
真冶はスマホのAIに「完全数」と打ち込んだ。すぐにデータが表示される。
定義: 約数の和がその数の2倍になる(自身を除く約数の和が自分自身と等しい)数。
代表的な完全数: 6, 28, 496, 8128, 33550336, 8589869056…
特徴: 古代ギリシャ時代から知られる非常に珍しい数。2025年時点で52個発見されているが、すべて偶数。偶数の完全数はメルセンヌ素数と1対1に対応し、2^{p-1} × (2^{p}-1)の形で表される。
真冶はスマホを見つめながら、ぼそりとつぶやいた。
「……6と言えばいいのに」
ランプの炎が、まるで同意するように小さく揺れた。
——第二話 終
